東洋医学における「肝臓」と吸い玉での施療点
島国と言われた日本であっても、海外渡航が日常的になった現在、食生活においても欧米化はもとより世界化が一般的になっています。
食の多様化とともに肝臓疾患は増加しています。 その肝臓病を東洋医学の面から考察してみましょう。
東洋医学における「肝」の概念
現代医学が高度に発達した現在、ある種の肝臓病は完全に治療可能と言っても過言ではないでしょう。
しかし、まだまだ多くの疾患は未だ治りにくい病気であり、症状を抑えることは出来ても慢性化する傾向にあります。
「肝臓」は英語で「Liver」そして「生命」は「Live」。
英語の起源では肝臓と生命というのは、共通のルーツを持っていて、肝臓=生きる人という意味にもなるそうです。
日本にも「肝心要」「肝要」という言葉があるように、洋の東西を問わず肝臓は生命と結びつく、なくてはならない重要な臓器として認識されています。
ただし、西洋医学的な「肝臓」と東洋医学的な「肝」とは少し概念が異なっています。
西洋医学の場合「肝臓」に関する病変・病気というと、アルコール性肝炎、脂肪肝、A型・B型肝炎、肝臓ガン等「肝臓」の様々な病理変化となります。
しかし東洋医学いう「肝」という概念は「肝臓」を指すだけではありません。もっと広い範囲でその働きを捉えているのです。
例えば自律神経失調、心身症、更年期障害といった神経・内分泌系の問題も「肝」の病変に含まれます、また目の病気とか頭痛、高血圧、胃腸病、女性の生理問題、男性のインポテンツなどの問題も「肝」の範囲に含まれてきます。
ですから東洋医学の漢方薬や鍼灸の先生から「肝が悪い」と指摘されても「肝臓」の病気だということではありません。
それでは東洋医学における「肝」の概念を説明していきましょう
「肝」は五行説では「木」に相当します。それは1日で言えば朝、季節で言えば春に相当します。これらは全て共通のイメージで繋がっています。
「木」が春の陽光に照らされながら、ぐんぐんと成長するイメージです。
このイメージから推察される「肝」の主な働きは、
★疏泄(そせつ)を主る
★血を蔵(やどす)
ということ。
「疏泄を主る」というのは、簡単に言えば、エネルギー(気・血)を滞りなく全身に行き渡らせるということです。
「血を蔵す」というのは、症状がひどくなり悪化して血を出す病気、例えば喀血や吐血する胃腸炎などがありますが、肝硬変のために食道に静脈瘤ができ、その静脈瘤が破れた時も大量に出血します。
私たちの体のあらゆる部分に栄養を与えていくには、血液が必要です。
身体のいろいろな臓器が十分に機能していくにも、皮膚が潤いを保つにも、呼吸するためにも全て血液が必要です。
この血液を多量に持っているのが肝臓です。
「肝は血を蔵(やどす)」とは、このことを指します。西洋医学の面から見ても、肝臓と血液は密接な関係を持っていることが明らかですが、東洋医学でもその点を指摘しています。
ポンプ作用を行っているのは心臓ですが、最も栄養豊富な血液が集まっているのは肝臓で、血液循環に関してお互いに協力しあっているのです。
栄養は肝臓で様々な代謝を受けます。そして、血液内の成分は肝臓の働きにより、一定に保たれ体全身の組織に行き渡ります。眠っている時には、肝臓に血液がたくさん集まるのが理想です。
肝とストレスの関係
さらに東洋医学では「肝」が一番、精神的なストレスを受けると考えられています。
ストレスはマインド(精神や感情)の自由なのびのびとした働きを抑圧します。
ストレスによって「肝」としての、のびのびとした働きが抑圧された状態を「肝気鬱結」といいます。
イライラとか脇腹・季肋部の張った感じとかが主な症状です。
「肝は将軍の官」と言われ剛の性質を持っていますから、実証として現れる傾向にあります。
「肝」の働きの弱い人は虚証として現れます。心因性の病気とか自律神経失調の病気とかも「肝」と大変深く関わってきます。
そして実証の症状が長く続いたりした場合、鬱帯して抑圧されたエネルギーが「火」「熱」の様な状態となり、これを「肝火上炎」と言います。
また、「肝気欝結」が胃腸に悪さをした場合を「肝気横逆」といいます。
そのほか、「肝」の機能が低下したときに、どのような症状が出るか見てみましょう。
★「肝は目を主る」
「肝」の働きが弱くなると、疲れ目、乾き目、カスミ目といった、目の症状が出るということがあります。
★「肝は筋を主る」
「肝」の働きが弱って、筋肉に栄養が回らなくなると、筋肉の痙攣、ひきつけ、ふるえなどが起こります。
さらに関節を曲げたり、伸ばしたりが十分できないなどといった事になることもあります。
★「その華は爪に在る」
「肝」の血が足らなくなった場合に、爪に艶がなくなったり、もろくなったりする事があります。
これらの症状は、全て肝臓の血が少なくなる事によって起こる症状(虚血)です。
もともと肝臓は、安静時には体全体の28%もの血液が循環している器官ですが、様々な理由によって、血液が不足する事態に陥ります。その「様々な理由」のうち、主だったものをいくつかあげてみましょう。
1・胃虚弱(消化器系が弱い)
東洋医学の考え方では脾胃(消化器系)は後天の本とされ、体のエネルギーの本となる気・血は消化された食物のエッセンスから作り出されるとされています。
この働きは、脾・胃が丈夫であるかどうかに関わっています。
日本人には脾・胃の弱い人が多く、同じ物を食べても十分に消化・吸収して気・血を十分に作り出せない傾向にあります。
2・門脈の仕組みから来る問題
「静脈は重力に逆らって上がって行く事になるから、大変流れにくく鬱血しやすい」という問題です。門脈の循環は、胃腸の蠕動(ぜんどう)運動や呼吸による腹圧・腹力といった要素が流れを良くすると考えられています。
「肝」を考える上で、門脈循環をよくするという事は、見落としやすいですが、とても大切な事なのです。
3・その他
食べ物、女性の月経、ストレス、頭の使いすぎ、気血の流れが滞り瘀血(おけつ)となっている場合などが考えられます。
東洋医学における肝臓病の治療法
もともと中国医学では、人間の精神・心理活動は、内臓の活動やその基礎となる気・血と密接に関係していると考えます。
特に肝臓との関係は重要で、肝臓病患者の気持ちの変化は、病気の回復に大きな影響を与えます。
ゆったりとした気分でいる病状の改善に良い効果がありますが、イライラしたり、抑鬱の状態では病状を悪化させてしまいます。
多くの肝臓病患者は病気が長引くにつれて、次第に気が重くなり、治療困難な状態になると焦燥感が募り、ついには悲観的な気分になってしまいます。
これは病気の回復に極めて悪影響を与えているのです。
そのため、まずはストレスをやわらげるための休憩が第一です。
肝臓病になったら、まずは十分な休憩をとることです。
休憩は、病状の悪化防止や健康回復の大きな力となります。
十分に休んだ後は、個人個人の体質や病状の軽重を考慮して、少しずつ活動量を増やして行く様にします。
散歩、軽い体操、太極拳やヨガが良いとされています。過度な運動は避け、疲れを感じない程度のものが賢明です。
食べ物の調整も大事な治療法のひとつです。人間は食べ物によって生命を維持しています。
そして一部の肝臓病は、食べ物によって健康を回復させることができるのです。
実際、中国の病院では、中医薬と薬膳などの食事療法で飲食を調整することで、大きな治療効果を得ていたところもあります。
漢方医学が用いられることも少なくありません。
肝臓病に対する漢方薬は有効なものが多く、西洋医学の病院でも漢方薬を使うことがあります。
肝臓病において漢方を用いる最大のメリットは、体質にあった漢方薬を使えば、安心して長期服用ができ、副作用を減らしながら肝臓病を治癒または良好にコントロールできるということです。
西洋薬との併用も行われ、良い結果を出しているという事もあります。
肝臓病に使う漢方薬はたくさんの種類がありますが、肝臓病の初期から中期にかけては柴胡剤(さいこざい)という分類の漢方の一群が有効とされます。
これは柴胡という薬草を主役に組まれた漢方薬の一群で、現代医学でも肝臓病に高い効果が認められています。
体力がある方には大柴胡湯(だいさいことう)、中程度の体力のある方には小柴胡湯(しょうさいことう)や柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、体力のない方や高齢者では補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などと使い分けます。
また、黄疸やむくみなどがあれば別に茵陳五苓散(いんちんごれいさん)や茵陳高湯(いんちんこうとう)などの処方なども行われます。
肝炎の末期や肝硬変では、すでに体力が損なわれている例が大半ですので、体力も補う目的を加味した柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などを使う事が多くなります。
以上の処方は肝臓病用漢方のごく一部で、また体質が病状によっても異なりますので、服用の際は必ず専門医か薬局に相談して下さい。
「経絡」というのは、全身のエネルギー(気・血)の流れるルートで五臓六腑と深く結びついています。
「肝経」というのは「肝」に関わるエネルギールートです。
「肝」に問題がある場合は、「肝経」にそって症状が現れやすくなります。
東洋医学では肝臓を筋肉や眼と連携させて捉えていて、肝臓と筋肉運動が緻密な相関関係にあることを示しています。
東洋医学的見地から言うと『筋肉のひきつれ、硬直、痛み、けいれん、弛緩』などの現象は肝臓の機能低下と密接に関連していると考えると良いでしょう。
また、「肝の気は目に通ず」「肝は目に開孔す」とあるように、老化・視力低下・乱視などの視力の障害や、白内障・緑内障・眼底出血などの眼球の疾患は肝臓の治療に重点を置くと良いでしょう。
吸い玉にける肝臓の治療点【肝経】
肝臓の色素反応点(15)に強い反応は出ていませんか?
ここでは肝経の治療点について解説していきましょう。
肝臓の治療点(上図)として真っ先にあげられるのが胸腹部の肝臓の墓穴【8】期門です。
この治療点は他とは違い、左右で治療対象が異なっています。
【8】(右側)は肝臓病全般だけでなく、急性・慢性肝炎、肝硬変、脂肪肝、アルコール性肝炎、肝臓がんなどの他、胆石症や胆嚢炎(胆のう炎)などの肝臓と胆嚢の関連疾患にも効果的です。
この治療点は肝臓と脾臓で治療対象が左右に分かれていますが、これはあくまでも施療上の原則ですので、実際の施療点としては左右を同じ様に施療し、色素反応(吸い玉時の肌に出る色の濃淡)の強く出た(色が濃い)所を重点的に施療して下さい。
施療点(7)章門は脾経の墓穴ですが、【8】とほぼ同じ施療点を持っています。
ですから、実際の肝臓病の治療を行う場合は、治療点(7)から【8】にかけて施療点をずらすながら、施療を進めて行くのが好ましいです。
また、肝臓では脚の内くるぶし上15cm程度の(レイコウ)が肝臓の働きを高める施療点として知られています。
この付近には(4)中都もあり、吸着カップ4号程度の大きさでじっくりと施療をして下さい。この施療点は生理不順などの婦人科疾患にも効果的です。
さらに原穴【2】太衝、(3)山陰交も肝臓病関連の治療点となっています。
吸い玉にける肝臓の治療点【胆経】
胆経は肝臓と陰陽表裏の相互関係にあります。ですから、関係上の治療反応が経絡上の関連した胆経上に現れる事も少なくありません。
肝臓病の治療でも、肝臓部や肝経上に現れず、右胸腹の胆経上に反応が出る事も多くあります。
胆経の肝臓病施療点は、右胸腹の施療点募穴【3】日月や(4)京門、(5)帯脈付近が挙げられます。
【3】は肝経【8】の下15cmとされていますが、吸着カップ5号以上のサイズを使えば効率良く施療できます。
この施療点は背部の膀胱経(14)と併用すると効率もアップします。
急性・慢性肝炎、肝硬変などの他、黄疸や胆嚢炎などにも効果的です。
施療点(4)京門は背部の第12肋骨先端にあたりますが、肝臓病の他に腎経の募穴として、腎臓病の重要な施療点としても知られています。
施療点(5)帯脈とともに、肝臓病特有のだるさ、吐き気、重苦しさ、消化不良、下腹部痛などに用いられます。女性の生理不順、子宮卵巣関連の疾患にも優れた治療効果を引き出してくれます。
なお、胆経上の施療点としては、腰から下の(6)〜(9)が挙げられます。これらの施療点は腰痛や坐骨神経痛、筋肉麻痺、リウマチ、脳血管障害による運動麻痺にも良く効きます。
肝臓に良い食事
肝臓の状態には食生活や栄養面も、大きく影響します。
すでに肝臓を患っている人はもちろん、肝臓病の予防のためにも栄養療法を併用すると、さらに効果を発揮することができます。
まず、肝臓そのものに必要なのはタンパク質です。肝臓自体がほとんどタンパク質で出来ており、タンパク質は肝臓が正常に仕事をおこなうためにも欠かせない栄養素です。 痛めてしまった肝臓の、細胞を再生させる作用をするのもタンパク質です。正常なら1日60〜70gで十分な摂取でも、肝臓が弱っている時などは、1日90gは摂取する必要があります。タンパク質の分解が出来ないほどに弱っている時や、タンパク質の摂取に制限がある場合は、アミノ酸に分解されたエキスなどを使うことも良いでしょう。
もちろん、栄養のバランスをとることも大切です。例えば糖質を全く摂らないと、せっかく摂取したタンパク質もエネルギーとして使われてしまいます。
また、脂肪肝の場合は脂っこい食品を控える事は重要ですが、肝臓は脂質を備蓄する役目もありますので、必須脂肪酸を全て絶ってしまては逆効果です。
さらに、タンパク質と糖質だけでなく、緑黄色野菜や果物などのアルカリ性食品により、ビタミンを補給する事も大切です。
肝臓はアルコールの分解や解毒作用が行われる臓器です。
アルコール製品(過度な飲酒や劣悪な酒類)や食品添加物などの化学物質は、肝臓の負担となるので注意しましょう。
また、便秘は肝臓の大敵です。肝臓には腸で消化、吸収された多くの物質が集まってきます。
その中には栄養素と有害物質(腸内で腐敗、発酵した毒物)が混じっており、肝臓はこの毒物を体に害のない物質に変える働きがあります。
しかし、腸内環境が悪化したり便秘になると、体内の毒物が大量に発生し、肝臓に負担をかけてしまうことになります。
繊維質の多い食品や腸内環境に良いサプリメント、腸内環境を整える製品などを積極的に摂取して、肝臓に負担のかからない生活を心がけましょう。
もうひとつ気をつけたいのは、食後はできるだけ安静にしていた方が良いと言う事。
食事の後の肝臓は、フル稼働で働かなければいけません。肝臓の負担を軽くするためにも、食後は30分〜1時間、ソファーに腰をかけたり、横になるなどしてゆったりと過ごしましょう。
食後1時間以内はお風呂に入らない事も大切です。